だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
ママは穏やかな、それでいてとても厳しい表情だった。
今日まで驚くことが沢山あった。
けれど、これから聞く話に驚かない自信など一つもなかった。
「柴田の家のことは、ご存知なのかしら?」
「いえ、詳しくは・・・。母は、あまり話したがらないもので」
「そうね。あの家には、私も圭子さんもいい思い出がないから」
「・・・母も、同じことを言っていました」
ママは納得したように頷いた。
冷たい表情から変化はなく、強張った声で話を始めた。
「圭子さんは快斗の婚約者でした。もちろん、親同士が決めたもので本人にその意識はなかったの。快斗には」
「それは、母には『意識があった』と?」
「そうね。圭子さんと快斗は幼馴染みだったから。快斗を異性として意識するのは、簡単だったでしょうね」
圭都が緊張しているのことが、繋いでいる手から伝わってきた。
温度を少しずつ失っていく手のひらから。
「柴田コンツェルンという名前をご存知?」
「はい。確か日本有数の財閥ですよね。うちも系列の会社からですが、仕事をいくつも頂いてます」
「快斗は現会長の嫡子よ」
「・・・は?」
「簡単に言うと、現会長の長男で代表取締役の兄に当たるわ」
湊と圭都のお父さんが、そんなにすごい人だなんて知らなかった。
圭都も驚きを隠せないようで言葉が出てこないようだった。
湊も私と一緒で、物心付いたときにはお父さんはいなかった。
だから、湊からそんな話を聞くこともなかった。