だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版





ママは穏やかな、それでいてとても厳しい表情だった。

今日まで驚くことが沢山あった。

けれど、これから聞く話に驚かない自信など一つもなかった。




「柴田の家のことは、ご存知なのかしら?」


「いえ、詳しくは・・・。母は、あまり話したがらないもので」


「そうね。あの家には、私も圭子さんもいい思い出がないから」


「・・・母も、同じことを言っていました」




ママは納得したように頷いた。

冷たい表情から変化はなく、強張った声で話を始めた。




「圭子さんは快斗の婚約者でした。もちろん、親同士が決めたもので本人にその意識はなかったの。快斗には」


「それは、母には『意識があった』と?」


「そうね。圭子さんと快斗は幼馴染みだったから。快斗を異性として意識するのは、簡単だったでしょうね」




圭都が緊張しているのことが、繋いでいる手から伝わってきた。

温度を少しずつ失っていく手のひらから。




「柴田コンツェルンという名前をご存知?」


「はい。確か日本有数の財閥ですよね。うちも系列の会社からですが、仕事をいくつも頂いてます」


「快斗は現会長の嫡子よ」


「・・・は?」


「簡単に言うと、現会長の長男で代表取締役の兄に当たるわ」




湊と圭都のお父さんが、そんなにすごい人だなんて知らなかった。

圭都も驚きを隠せないようで言葉が出てこないようだった。

湊も私と一緒で、物心付いたときにはお父さんはいなかった。

だから、湊からそんな話を聞くこともなかった。





< 309 / 358 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop