だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「まぁ、親子の縁はとっくに切れているから、もう関わりの無いことだけれど」
「はぁ・・・」
「圭子さんのご実家も、随分な旧家だと聞いているけれど」
「あ、はい。ただ実家は名古屋の方なので・・・」
「そうね。圭子さんが柴田の家から逃げたのは、貴方のためでもあるから」
中々話が見えない中で辛抱強く耳を傾けるのは、意外と体力を使うもので。
それでも肩に入った力を抜くことは出来なかった。
「柴田の家は国内有数の資産家で、快斗はその家の長男だった。
出逢った当時の快斗は、コンツェルンの副社長だったわ。
誰よりも優秀で誰よりもその家の当主に相応しい人だった。
家督争いをしようとさえ思わないほど、快斗は完璧だったの。
容姿、教養、立ち振る舞い。
それは『世界を相手にしていける日本人』としてメディアも注目していたのよ。
でも、その人は突然経済界から姿を消した。
次期後継者が弟になったことで、快斗は経済界の表舞台から身を引き消息を絶った。
そして、柴田の姓を名乗ることはなくなったのよ」
「そう、でしたか。でも、快斗さんのお墓は――――」
「柴田の姓になっているわね。言葉にはしなかったけれど、あの人なりに柴田の家は大切にしていたから。その方がいいと想ったのよ」
初めて聞く湊と圭都のお父さんの話。
口を挟むことなど出来ず、ただ圭都に寄り添ってその話を聞いていた。