だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版





リビングへと振り返る。

その姿がとても凛々しくて、私は思わず見惚れてしまった。




「お騒がせしました。今日はこれで失礼します。時雨と暮らす新しい住所は、後日ご連絡します」




自分の出生の秘密を知って、どうしようもない現実を突きつけられたのに。


圭都は、最後まで『櫻井圭都』だった。


隣に並んで私も一緒に頭を下げる。

圭都のように綺麗ではないけれど、精一杯の気持ちを込めて頭を下げた。




どうしても譲れないことがある時、人はとても残酷になる。

分かり合うことは無理かも知れない。

それでも、出来る限りの努力をしようと決めた。




顔を上げると、お父さんが私達を見ていた。

お父さんの顔はとても穏やかで、そんな姿にまた少し泣けてきた。



ドアを開けた瞬間、後ろから『また来なさい』とお父さんが言った。

圭都は綺麗にお辞儀をしていたようだったけれど、私は涙が邪魔をして笑えなくなってしまって。

そんな顔をお父さんに見せたくないと、そそくさと実家の玄関を後にした。



ありがとう、お父さん。

どんなに離れていても私の味方でいてくれて。

どんな事実も、私の決めたことなら受け入れてくれて。


帰ってくることが出来て、本当に良かった。

辛さも温かさも全部が『私の大切なもの』だと分かったから。






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