だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
あれから二年が経った。
私は今年三十歳になり、圭都は三十五歳になった。
結局若いうちに子供を生むことが出来なかったけれど、その分仕事に打ち込んだので後悔はしていない。
企画営業部のメンバーは相変わらずだ。
取締役になってしまったが『もう少し現場にいたい』という、なんとも尾上さんらしい理由でうちの部署の部長も兼任している。
代表以下取締役を全部説得してしまったのだ。
ただ『ちょっとした諸事情』でうちの部署を離れなくてはいけないことになり、現在は水鳥さんと引き継ぎの挨拶周りをしている。
うちの部署としては大事件だったのに、当の本人たちはとても飄々としていた。
水鳥さんは課長になるはずだった。
うちの部署をまとめる役割を水鳥さんに任せるつもりだったのに、水鳥さんは『イヤ』という一言でそれを断った。
そのため圭都が課長職を任され、水鳥さんは係長のまま部署の営業事務として仕事をしている。
本人は尾上取締役の専属秘書を目指しているらしく、うちの部署のことは圭都にしっかりと叩き込んでいる。
『亜季と同じ部署かぁ』と意地悪そうに言った言葉を、私は聞き逃さなかった。
むしろその人事希望が通ったとしたら。
『この会社の人事はどうなっているんだ』という疑問と、『あの二人に逆らってはいけない』という暗黙のルールが会社全体に浸透することだろう。
それと、水鳥さんはこの二年の間に苗字が変わった。
つまり結婚したということだ。
相手が相手なだけに全員衝撃を受けたが、とても納得した。
納得はしたけれど、うちの会社の不思議な部分を垣間見た瞬間でもあった。
それはまた、別の話。