だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
三月二十三日。
今日は会社を休んで湊に逢いに来た。
大きなカサブランカが私の手にはある。
湊がいなくなって、十年目。
随分時間が過ぎた。
でも、今も。
昨日のことのように苦しくなる時がある。
まだこんなに大切なのだ、と思い知らされる。
「久しぶり、湊」
此処にも確かに湊がいるような気がするけれど、やっぱり何処にもいない気がする。
湊は、いつも傍にいてくれるから。
綺麗にお墓を掃除してお花を飾る。
いつものように近況報告をして、圭都が此処にいないことを謝った。
「最近は一緒に来れなくてごめんね。でも、頑張ってるよ。圭都は特に。ママもきっとわかってくれると想う」
相変わらずママとは平行線だけれど、この前一人で家に遊びに来てくれた。
もちろん圭都はいなかった。
まだ会う気持ちになってはいなくても、私達の生活をわかろうという努力はしてくれる。
お父さんから話を聞いているのだろう。
お父さんには心配をかけてばかりだけど、どんな時も味方でいてくれることが何より嬉しかった。
湊のお墓をじっと見つめる。
そして、そっとそれに触れる。
その冷たさがどうしようもなく切なくさせるけれど、そうせずにはいられなかった。