だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版





「そろそろ、行くね」




そっと立ち上がって湊に告げる。

今日はとても暖かくて気分がいい。

軽く伸びをして真っ青な空を見上げた。




「――――――っ――――――」




上を向いた私の身体は、引力に負けるようにその場に倒れこんだ。


自分の身体がふらついているのがわかる。

眩暈がして視界が白くぼやけている。


お彼岸だったこともあり、お墓には人が沢山いた。

私が倒れた場所に人だかりが出来る。

声をかけてくれるけれど、それに返事を返すことが出来なった。



お腹の奥が痛くなって吐き気がする。

そういえば最近、理由もなく寝不足気味だったことを思い出す。

体調が良くないといつも二月頃に胃腸炎になるのだが、今年はそれがなかった。

そんなに調子を崩しているわけではないが、今頃になってやってきたのだと感じた。



誰かが救急車を呼んでくれたらしく、すぐに私は担架で運ばれた。

救急隊員の人が話しかける声に何とか返事をして目を開ける。


狭い車内で指に機械が取り付けられた。

おぼろげな意識の中で、近くの病院に交渉する隊員の人の声が聴こえる。




「――――吉田総合病院まで、お願いします。山本時雨と言ってもらえれば、必ず受け入れてくれますから・・・」




搾り出すように言った言葉に、隊員の人がすぐに連絡を取ってくれた。


ここから向かう病院は一つしかない。

お父さんとママが待つ、あの病院以外に有り得ない。


救急車は大きな音を立てて走り出した。




< 336 / 358 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop