だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「そろそろ、行くね」
そっと立ち上がって湊に告げる。
今日はとても暖かくて気分がいい。
軽く伸びをして真っ青な空を見上げた。
「――――――っ――――――」
上を向いた私の身体は、引力に負けるようにその場に倒れこんだ。
自分の身体がふらついているのがわかる。
眩暈がして視界が白くぼやけている。
お彼岸だったこともあり、お墓には人が沢山いた。
私が倒れた場所に人だかりが出来る。
声をかけてくれるけれど、それに返事を返すことが出来なった。
お腹の奥が痛くなって吐き気がする。
そういえば最近、理由もなく寝不足気味だったことを思い出す。
体調が良くないといつも二月頃に胃腸炎になるのだが、今年はそれがなかった。
そんなに調子を崩しているわけではないが、今頃になってやってきたのだと感じた。
誰かが救急車を呼んでくれたらしく、すぐに私は担架で運ばれた。
救急隊員の人が話しかける声に何とか返事をして目を開ける。
狭い車内で指に機械が取り付けられた。
おぼろげな意識の中で、近くの病院に交渉する隊員の人の声が聴こえる。
「――――吉田総合病院まで、お願いします。山本時雨と言ってもらえれば、必ず受け入れてくれますから・・・」
搾り出すように言った言葉に、隊員の人がすぐに連絡を取ってくれた。
ここから向かう病院は一つしかない。
お父さんとママが待つ、あの病院以外に有り得ない。
救急車は大きな音を立てて走り出した。