だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版





「大丈夫ですか!?」




救急外来の入り口で大きな声をかけられる。

この看護婦さんは小さな頃から知っている看護婦さんだ。

私は吐き気を堪えて小さく頷いた。


ガラガラと走るストレッチャーがエレベーターに乗せられる。

動く時の感覚にまた吐き気がこみ上げるけれど、体勢を変えながら何とか耐えた。


エレベーターのドアが開くと、そこには心配そうな顔をしたママがいた。




「時雨ちゃんっっ!大丈夫っ!」




大きな声で私を心配する声。

すぐに『私が変わります』と仕事の声になったのを聞いて、小さく笑った。

どこにいてもママはママだ、と想って。



処置室でベッドに横たわる。

さっきより吐き気は収まったけれど、まだ目の前がチカチカしていた。




「時雨ちゃん、大丈夫?症状を聞いてもいい?」


「大丈夫・・・だけど、気持ち悪い」


「急性胃腸炎、今年はなった?」


「・・・まだ・・・。それっぽい気もするけど、なんか違う・・・」




急性胃腸炎の時は胃が痛いだけでなく、お腹の調子も悪い。

吐き気とめまいだけのこんな症状は初めてで、胃の中がキリキリと痛むのが苦しかった。

症状を伝えようと声を出したことで余計に具合が悪くなっていた。


心配そうに声をかけてくれたママに、目線を合わせることさえ出来なかった。




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