だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「時雨、起きたのか?」
お父さんが部屋のドアから歩いてくる。
お父さんの病棟ではないのに、こんなに堂々としていていいのだろうか、と時々疑問に思う。
本当にこの人は。
真面目に仕事をしているのかな、と。
その後ろにはママ。
それと、女医さんが一緒に歩いてきた。
「こんにちは、山本さん」
「こんにちは」
優しい声で、その女医さんは私の顔を覗き込んだ。
ママは仕事の顔だったので私はちょっとだけ緊張していた。
「山本時雨さん、で間違いないわよね?」
「お前、知ってるだろう?俺の娘だ」
「知ってるわよ。そして、美佳さんの娘さんでもあるのよね」
ママは『そうよ』とはっきり言ってくれた。
優しい顔で。
傍に来て、そっと私に触れる。
その手が診察ではないことを、私は知っていた。
「山本さんって呼びづらいわね。時雨ちゃんでいい?」
「はい、どうぞ」
「最近ちゃんと眠れてますか?」
「いえ。なんだか疲れがとれないみたいで。寝ても寝た気がしないんです」
「身体がだるかったりとか、突然眠くなったりは?」
「眠気はそんなに。だるさはかなりありますね」
「そう。食欲はある?」
「少しなら。でも、あまり食べたくない時が多いです」
「そうですか」
言った後、お父さんとママを交互に見つめて、最後に圭都を見つめた。
女医さんは黙ったまま微笑んだ。