だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「確か、時雨ちゃん結婚はまだだと聞いているけど?」
「はい」
女医さんの声のトーンが少しだけ下がる。
大切なことを話してくれるのだと、すぐに分かるやり方で。
「命を育てるのは、とても覚悟がいることよ。子供が出来たから結婚します、なんていうのはオススメしないわ。そんなに簡単なことではないから」
「・・・はい」
「それでも産んで育てたいという人には、いつも話をしているのよ」
「お話、ですか」
「そう。『子供に必要な三つのもの』という話よ」
「三つのもの・・・」
「そう。一つ目は覚悟、生む決断ね。二つ目は愛情。両親やその家族、そしてその周囲の人みんなに愛されないと、成長できないの」
女医さんは優しい顔つきになる。
子供が本当に好きでこの仕事をしているのだと誰でも分かる、そんな表情。
なんて素敵な人。
「三つ目は、理解よ」
「理解・・・?」
「そう、理解」
なんだか子供と結びつかない言葉に、私はじっと女医さんを見つめた。
その目は、私を確かめる目だった。
女医さんとお父さんとママから向けられる眼差しを感じながら、私も圭都もお腹から手を離せずにいた。