だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「どんな形であれ、あの人と湊が確かに生きていたことを圭都君が証明してくれるわ。『時雨』だけじゃない。快斗と湊に関わった全ての人のために、圭都君と生きて」
ママが、私を呼んだ。
いや、いつも私の名前を呼んでくれるけれど。
今までに聞いたことのない響きで、私を呼んだ。
それに反応する私を見て楽しそうにママが笑った。
「血も繋がってないのに、強情なトコロばっかり似てくわね『時雨』」
私は笑った。
目から涙が溢れるのを止められないけれど、笑った。
「仕方ないよ。だって娘なんだよ、『お母さん』」
私は、初めてママに『時雨』と呼ばれた。
『ちゃん』を付けることなく名前を呼ばれたのは初めてで。
私も初めて『お母さん』と呼んだ。
今までは何故か呼べなかったけれど、今は『呼びたい』と想った。
そう想わせてくれるほど、目の前の『お母さん』と初めてぶつかりあったから。
何を言っても壊れない『家族の絆』を作るために邪魔だったのは、『遠慮』という大きな壁。
これが私達の間にあった、本当の壁だったんだ、と知った。
「そういえば、予定日言ってなかったわよね?」
言われてみれば、そうだ。
私と圭都は顔を合わせてうーん、と考えていた。
それを見て、お父さんが『お母さん』の横に寄り添うように座った。
「私、時雨を泣かせてもいい?」
「今までも散々泣かせただろう」
「そう、意地悪を言わないで」
お父さんもお母さんも楽しそうに笑った。
そしてそれを見て、圭都が吹き出した。
私は一人でぽかん、とバカみたいに口をあけていた。
「泣かしてやって下さい、『お母さん』」
圭都はそう言って、私の髪の毛をいとしそうに撫でた。
その感触に私の胸が、とくん、とはねた。