だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
妊娠が分かった後、圭都とはすぐに結婚をした。
会社の仕事は続けられる限り続けた。
外出の機会を減らし事務に専念することで、臨月間際まで仕事をさせてもらっていた。
社内には子育ての『先輩』が沢山いたので、出産に不安を感じることもなかった。
何より医師と看護師の娘なので、そういった面ではとても心強かった。
この子の出産予定日は湊の命日だった。
普通は初産でこんなことはないのだけれど、順調すぎて予定日ぴったりに生まれる予定だった。
ただ、私が難産だったため予定日を一日過ぎての誕生となった。
でも、これでよかった気がする。
自分の誕生日が誰かの命日だなんて、あまり嬉しいものではないだろうから。
「お疲れ様、時雨」
とろけそうな顔をした圭都が私に向かって言った。
そっくりな顔をの赤ん坊を抱いたまま、とても幸せそうな顔をしていた。
両親が『仕事に戻るわね』と言って立ち上がる。
病室のドアの近くで、お母さんがパチン、とウインクをして出て行った。
生まれたばかりの我が子に、そっと手を伸ばして触れる。
柔らかくて、とても幸せな気持ちになった。
「名前・・・、私が決めてもいい?」
「ん?つけたい名前でもあるのか?」
私は小さく頷く。
とても幸せで柔らかい時間を貰えた。
でも私には、まだ叶えたいことがある。
大切なことが。