だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「いつになったら、敬語と名前を普通に呼べる?」
不安そうな声が響いた。
いつも言わずにいてくれた優しさに、甘えきっていたことはわかっていた。
それでも、敬語を止めて『圭都』と呼んであげるその時は。
私がこの人の腕に『抱かれたい』と想う時なのだ、と決めていた。
圭都が私を見つめる目はあまりに痛々しくて、私はそのまま目を逸らしてしまった。
「あの・・・」
「悪い。無理強いするつもりはなかったんだ」
ふっと、私から圭都が離れていく。
窓際に一人で立っている。
いつまで経っても不安にさせてばかりの私は、上手に彼女をすることも出来ないのかと悲しくなった。
ベランダの背中を眺めながら、湊のことばかりを想い出している。
そのことに、この人が気が付かないわけがなかった。
「時雨。大晦日に一緒にビジョンを見に行こう」
窓の外から目線を戻して言った。
顔に浮かんだ笑顔は、少し困った笑顔をしていた。
どうすることも出来ずに私は笑って頷いた。
「一緒に新しい年を迎えたいと、想ったんだ」
そのままの距離で圭都は言った。
縮まらないこの距離が今の私たちの距離なのだ、と想った。