だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「おかげさまで。随分鍛えられてますから」
そう言う森川も、なんだか嬉しそうだった。
去年までは櫻井さんと一緒に現場を回していたはずだったのに、いつの間にか独り立ちをした森川。
仕事をしている横顔は自信に満ち溢れていた。
不意にこちらを向く。
優しい目線で。
「お前もゆっくり過ごせ。いい年を」
「うん。森川もね」
あぁ、と軽く手を挙げて森川は行ってしまった。
気が付けばカウントダウン三十分前。
最終チェックに入る時間だった。
「行くぞ」
そう言われて、はっと正気に戻る。
森川の仕事姿をじっと見ていたので、なんだかぼんやりしていた。
「森川に見とれたのか?」
少し意地の悪い声で私に問いかけてくる圭都。
その声の中に嫉妬の片鱗も見せないなんて、狡い人。
こういうところは、今までと何の進歩もないのだ。
圭都はにやりと笑って私を見ていた。
「ダメですか?同期の応援をしたら」
ふいっと顔を背けて言い放つ。
もっと真剣な顔も出来る人だと知っている。
それなのに、見せてくれないなんて。
意地悪にもほどがあるだろう。