だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
末葉...マツヨウ
ホテルの部屋からは大型ビジョンと、その周りの沢山の人が見えた。
どちらからともなく二人で窓際に並んで立っていた。
「あと十分で今年も終わりだな。乾杯するか?」
あと、十分。
差し出されたグラスを持ってルームサービスのシャンパンで乾杯をする。
二十三階から見る街の景色は、大晦日だというのに明るい光を放っていた。
「一年の締めくくりに」
「乾杯」
華奢なグラスがそっと触れ合う。
綺麗な高い音をあげて中のシャンパンが揺らめく。
一口喉に流し込んで、ふうと息をつく。
今年も、もうすぐ終わっていく。
「ありがとな。隣にいてくれて」
そんな切ない声で、そんなことを言わないで。
二人でただ見つめ合った。
刻々と時間は進むのに。
やけにゆっくりと時間が流れているように感じた。
「時雨といられて、幸せだった」
その言葉は、湊の言葉と同じ。
私はやっぱり泣いてしまうんだな、と想った。
この人を傷つけてばかり。
いとしさが積もるたび、湊を想い出す。
この人を大切にすればするほど。