だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
抱き上げられてベッドに運ばれる。
柔らかな手つきで、私をそっと横たえる。
あまりの緊張に圭都のジャケットをぎゅっと引っ張ると、ポケットから小さな瓶が転がった。
宝石のような形の小さな瓶。
触り心地に憶えのあるその形。
手に取って目の前に持ってくる。
「これって・・・」
私の手を見て圭都がそっと持ち上げる。
私を見下ろしたまま、顔の目の前に差し出される。
「時雨の匂い、だろ」
そう言って笑った。
BABY DOLL
(ベビー・ドール)。
Eau de Toilette
(オー・デ・トワレ)。
一九九九年発売。
『恋を叶える香り』として発売。
女性からの圧倒的支持を受ける香水。
高校入学をして二回目の誕生日。
湊から初めて贈られた香り。
それ以来、一度も香水を変えていない。
「お前への誕生日プレゼントに買ったんだ」
照れくさそうに圭都が笑う。
私の香りを知っているなんて、想いもしなかった。
「買ったら小さいのが付いてきて、思わずポケットに入れたんだ。家に置いてもいいか、後で聞こうと想ってたんだけどな。いつでもお前が使えるように」
圭都は恥ずかしそうに笑った。
その顔があまりにも幼くて、私は思わずキスをした。
少し動く度に、自分の身体からベビー・ドールの香りがした。