だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
目を合わせると、今まで何を怯えていたのかわからなくなった。
こんなにも安心できたのは本当に久しぶりだった。
抱き締められている腕の感触が、この人が『湊ではない』と教えてくれている。
近付けばこんなにも違うのだとわかるのに。
近付きすぎて傷つけるのが怖かったわけじゃない。
自分が傷付くのが、何より怖かった。
湊を見失うことも。
でも、胸の中に湊が残っている。
何も見失ってなどいなかった。
湊も、圭都も。
このまま大切にしていける気がした。
そっと頭を撫でてくれる手に嬉しくなって笑った。
目の前には、同じように笑った圭都が見える。
圭都の瞳の中いっぱいに私を映してくれていることが、私をとても幸せにしてくれた。
「時雨がそんな風に笑ってる顔、初めて見たな」
呟くように圭都が言った。
その言葉にもう一度深く笑う。
瞼を閉じて、ゆっくり開ける。
真っ直ぐに圭都を見つめられるように。
「この顔を知っているのは、この世界で湊と圭都だけだと想う」
出来るだけ柔らかく届くように言った。
圭都の手は、もう怯えていなかった。