だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「こんなに満ち足りることはない、と。ずっと、そう想ってた」
目を逸らさずに言いたかった。
大切なことは、圭都にしっかりと届けたかった。
湊がいなくなってから。
ぬくもり以上の存在を求めることはなかった。
大切にされる、とか。
大切にする、とか。
そんなものを湊以外の人と分け合っても、虚しいだけだと想っていた。
事実、虚しかった。
言葉だけで想いを確かめて。
気持ちの奥底を見せることが出来なくて。
どれだけ寂しいかを泣き叫ぶことさえ出来なくて。
薄っぺらな関係の方が、自分の気持ちを正常に保てる気がしていた。
「誰かを大切にしたい、と。もう一度想えるなんて、想像もつかなかった」
自分のダメなところも、自分の本音も。
仕事をすることの意味も、仕事の大切さも。
どんな私でも受け止めてくれるなんて、幻想だと想う。
人はいつも独りで。
人はいつも偽善者で。
人はいつも臆病なのだ。
そんな私を、揺さぶって動かしてくれた。
私を傷付けることを厭わず、自分が傷付くことなど更に厭わず。
私の心に、ずっと呼びかけて続けてくれていた。