だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「夜明けが来たみたいだよ」
真っ暗な不安の中に、明かりを灯してくれた人。
何度も振り切って、何度も傷つけたはず。
この人がくれたひたむきな気持ちを、何度も踏みにじってきたはず。
真っ直ぐな視線から逃げるばかりで、自分を守ることに精一杯だった。
目の前の顔を両手で包む。
私の頭を撫でていた手が、私の右手を掴む。
冷たい左手が。
私の右手を。
「好きになってくれて、ありがとう」
それしか伝えられなかった。
他の言葉は出てこなくて、やっぱり上手に言葉を使えない、と想った。
大切にしたいと、心の底から想っているのに。
それを言葉にするのは苦手。
いつも口から出るのはシンプルな言葉で、どこか少し嘘を含んでいる。
その嘘は、伝えるのが下手な私が気付かず吐いているものだから。
今は正直な気持ちを伝えている。
もう隠すことが無駄だとわかっているから。
きっとこの人は、私の心を見透かすのがとても上手で。
汲み取って、そして何も言わずにいてくれる。
甘えだとしても、それを受け入れてくれる人。
この人がいて、本当に幸せだと想った。