だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「これからが山場だもんな。無理すんなよ」
会社にいるくせにこんな顔をするのは、反則だと思う。
いつもの凛々しい顔とポーカーフェイスは、徐々に剥がれてなくなりそうだ。
けれど私の前以外では決して剥がれない。
そういうところが、本当に不思議でたまらなかった。
「櫻井さんも。一緒に仕事してるんだから、たまには頼ってくださいよ」
「わかったよ。俺は抱えてる案件多すぎて整理出来ないしな」
大型案件は大抵、圭都のところへ回ってくる。
それを指示して営業に振り分けている。
もちろん部長と相談しているが、実質業務を担当しているのは圭都なのだ。
「いいアシスタントのおかげで、上手く仕事出来てるよ」
私はその言葉に笑った。
仕事を褒められるのはとても気分のいいものだった。
自分の出来る仕事が増えている安心感が、成長の証のように思えた。
「吹っ切れたな、仕事」
ぼそっと言った圭都の顔を思わず見つめてしまった。
その顔から柔らかさが消える。
ロビーに着いたのだ、とわかって私も目を逸らした。