だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
頭の上からは大きな手がなくなり、私は会社の封筒を抱えたままエレベーターを降りる。
他部署の営業さんとすれ違い、簡単な挨拶をして会社を出る。
社内恋愛が禁止なわけではないが、圭都の彼女となると敵は多い。
それも『とびっきり』の敵が。
私を気遣って圭都はただの部下として接してくれる。
そのことが、とても嬉しかった。
「御堂会長はいつまでこっちにいるんだ?」
「確か明日まで、と聞いています」
地下鉄の駅に向かう途中、二人でそんな会話をしていた。
ごく普通の会社の業務について。
今日の予定やクライアントの予定の確認。
必要な資料や会社に戻ってからすること。
仕事の内容を口にすると、信じられないくらい予定が詰まっているのがわかる。
そんな中で愚痴も言わずに仕事をしている圭都を、本当にすごいと思った。
少し人間離れしている、とも。
「今週末も休み返上かもな」
呟いた横顔は少しだけ不満そうだった。
珍しいな、と思ってくすりと笑いが漏れる。
私のそんな気配を感じたのが、圭都が不意にこちらを向いた。