だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「では、遅くならないようにしっかり仕事をこなしてください。出来る限りのお手伝いはしますから」
冷たく響けばいいと思った言葉でさえ、嬉しそうに笑っている。
こんなにも感情豊かな人だったかな、と時々疑問に思う。
「了解。じゃあ、地下鉄の中で今日のスケジュール確認をしよう」
「わかりました」
さっきまでの穏やかな顔は、地下鉄の駅へ向かう階段を降りる瞬間に消えた。
いつもの仕事の顔をする『櫻井圭都』。
本当に狡いと想う。
私の前で見せる沢山の顔に、いつも心が揺れてばかり。
結局ポーカーフェイスを守られていることが、なんだかとても悔しかった。
公私混同してはいけないと思いつつも、今まで見ないようにしてきた圭都の新しい一面を見ると、胸が震えた。
それを必死に隠しながら、二人で今日のスケジュールを確認する。
仕事は仕事。
せっかく認めてもらった私の大切な日常。
それを認めてくれる上司は、とてもシビアで厳しい人だ。
甘い顔をして仕事をしてくれる人ではない。
仕事の顔をしたこの人は、私を一番成長させてくれた人なのだから。
もっと認めて欲しい、と想った。