だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
棚から圭都のマグカップを取り出す。
真っ白だけれど取っ手が持ちやすいように工夫された、どこか洗練されたカップ。
綺麗な形をしたそれを手に取る。
コーヒーの粉を入れて圭都用のコーヒーを作る。
少し濃い目のブラックにして。
給湯室のドアがカタンと開くと、人の気配がしたのでそっと目線を上げた。
そこには、いつもは足音でわかる人がなんの足音もたてずに立っていた。
「お疲れ様です。すみません、すぐに済みますから」
杉本さんは私を見つめたまま入り口で腕を組んでいた。
その場所から動こうとしない杉本さんを不思議に思いながらも、私は圭都のコーヒーを用意し終えた。
「あの。もう、終わりますが・・・」
そっと杉本さんに告げたけれど反応はない。
そういえば、きちんと顔を合わせるのは久しぶりのような気がしていた。
想い出されるのは医務室の中で聞いた圭都との言い合い。
それを私が聞いていたことは知らないだろうけれど、私に対する想いを知ってしまった。
この人にとって私は『嫉妬』の対象以外の何者でもないのだろうから。