だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「櫻井君と付き合ってるの?なんだか、最近いつも一緒にいるけど」
かけられた言葉に動揺する事はなかった。
表情を変えずに杉本さんを見つめる。
杉本さんは少しだけにやりと笑っていた。
圭都と同じように、口の端だけを持ち上げた顔で。
ここで私が放つ言葉がどれだけの意味を持つか知っている。
社内で私たちが付き合っていることを知っているのは、今のところ水鳥さんだけだ。
他の人が知っているわけがない。
森川にすら、私はまだ言っていないのに。
それを杉本さんが知っているはずはないのだ。
これは『挑発』。
これに乗ってしまえば、二人の関係はたちまち社内に知れ渡るだろう。
判断を間違った瞬間に。
「有り得ないですよ。そんな風に見えましたか?櫻井さんと仕事する機会が増えたせいだと思います」
さりげなく響くように、そっと言う。
困ったような顔を向けて。
いかにも迷惑な噂だ、と言わんばかりの顔で。
杉本さんは顔に貼り付けた笑みを失くすことはなかった。
それどころか、更に深く笑って私を見据えていた。
その目線はあまりに鋭くて、私はその場から動けずに固まってしまった。