だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「そう。なんだか雰囲気が違う気がしたんだけど、付き合ってないのね。まぁ当然よね」
『当然』だと杉本さんは言った。
その言葉に、にっこりと満面の笑みを返す。
心の奥が揺れていることをしっかりと隠すように。
「そのマグカップ、素敵でしょう?会社でも使える物って難しくて」
それは暗に『私が買った』と告げている。
私の知らない出来事を一つひとつ教えるように、杉本さんは深く笑った。
「シンプルで素敵でしょう?探すの大変だったのよ」
過去があって当たり前。
それは、私も圭都も承知の上だ。
こんな小さなことで動揺するほど私は弱くはない。
確かに嫉妬をしないわけではない。
けれど、目の前のこの人が圭都を支えてくれなければ、私が今圭都の隣に立つことは出来なかった。
「素敵なカップですね。使いやすそうですし」
そう言った声は、少し力が入ってしまった。
想っていることと声がこんなにも上手く繋がらないなんて。
小さな動揺は給湯室の空気を張り詰めた。
そして、杉本さんの表情が少しずつ固まっていくのを見ていた。