だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
それだけ言って、杉本さんは何事もなかったかのように給湯室を後にした。
いつも通り自己主張の強い足音を響かせて。
その背中に大きな不安を憶えた。
静かになった給湯室から私は動けずにいた。
そろそろ戻らなくては、圭都に不審がられてしまう。
それなのに。
今、ここから動くことが出来ない。
動くたびに大きな不安が私に走る。
結局私は、今でも湊を想い出す。
それでも圭都を大切に想っていることには変わりない。
ただ杉本さんのように、圭都だけを見つめてはいないのかもしれない。
私は、ちゃんとあの人を支えてる?
私は、ちゃんとあの人を見つめてる?
誰より好きだと言える?
結局、圭都の優しさに甘えているだけなのかもしれない。
自分で湊を振り切ることが出来なくて、湊に似た圭都に縋っているのかもしれない。
圭都のことは本当に大切。
でも、もし湊に似ていなかったら?
もし湊の弟でなかったら?
『もしも』になんの意味もないことは知っているけれど、考えずにいられない。
私は『一人の男の人』として圭都を幸せにしてあげることは出来るのだろうか。
杉本さんの残していった言葉は私に鋭く突き刺さって、抜けなくなってしまった。
結局どうすることも出来ずに、私はオフィスに戻ることにした。
その足取りは、自分のものとは思えないくらい重たい物だった。