だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
作らなければいけない資料は山ほどあったので、仕事に集中するのは簡単だった。
バレンタインイベントの当日資料、ホワイトデー用の企画書の最終訂正、ブライダルフェアの他部署用の資料。
今日中に全て終わらせなくてはいけない仕事量ではない。
けれど、私は頭の回る限り仕事をこなしていた。
杉本さんの言葉から、逃げるために。
「時雨、そろそろ終わるか?」
隣から声をかけられた。
その声に振り向くと、机の上の資料が見事なまでに片付いた圭都がいた。
「あ。・・・えと。もう少しでこの資料は終わります」
頭の中を急に切り替えることが出来ずに、言葉が上手く出てこなかった。
こんなに集中して仕事をしたのはいつぶりだろう、と思う。
「もう二十三時だぞ?そろそろ帰らないか?」
「えっ?もうそんな時間?」
驚きすぎて思わず敬語ではなくなってしまう。
慌てて周りを見渡すと、他の部署の電気はすでに消えていた。
圭都に目線を戻して見つめると、真剣な顔で私を見たままだった。
手を止めてじっと待っているだけ。
苦しくなるくらい真剣な目で。