だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「もう社内には誰も残ってない。今日中にすることは、とりあえず終わってるだろ?帰ろう」
圭都の声は優しさを含んでいたけれど、何かを隠すような言葉ぶりだった。
一緒に過ごす時間が増えた分だけ声に滲む感情の変化を感じ取れるようになっていた。
「あ、はい。すぐ準備します」
私の声にふっと息を吐くように笑う。
やれやれ、と言うように。
「もうみんないない、って言っただろう?普通に話せよ」
「あ・・・うん、ごめん。とりあえず帰る準備するね。給湯室でカップ洗ってくるから」
そう言って自分のカップを持って立ち上がる。
目に入った圭都のカップ。
そっと手を伸ばしてそれを手に取る。
さっきまでの仕事の内容は、もうすでに頭の中には残っていない。
圭都のカップを見る度に杉本さんの顔と声がフラッシュバックする。
それを押し込めるように、二つのカップを持ってそそくさと給湯室に向かう。
「悪いな。資料、まとめておくから」
「いいえ。じゃあ、資料お願い」
そっと笑って圭都の方を向く。
合わせた視線は、力なくほどけてしまった。