だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
給湯室では流れる水の音だけが響いていた。
カップを洗いながら、ぼんやりとそれを目に映す。
杉本さんとの想い出を。
こんな些細なことに揺れていて私は本当にどうしようもないな、と想う。
圭都は私が湊の面影を探す度に、それすら大切にしようと笑ってくれるのに。
私は圭都を支えてくれた人たちの面影が近付いてくると、苦しくなって逃げ出したくなってしまう。
これも嫉妬だけれど、杉本さんが私に向けたような『ひたむきさ』ではない。
どちらかというと子供じみた独占欲のようだ。
私のモノなのにどうして、なんていう。
とても稚拙な独占欲だ。
水を止めてカップを拭く。
棚の中にしっかりと収めて小さくため息をつく。
食器棚の中で、圭都のマグカップと私のマグカップが寄り添うように並んでいる。
それを見るとなんだか無性に笑えてきた。
それと同時にとてもホッとした。
隣に並んでいるのが自分であることに。
こんなところでしか寄り添えないわけではないのに。
いつも隣で寄り添ってくれる圭都を想った。
最近では、圭都のぬくもりに慣れすぎていて当たり前になってきたから。
寂しさが薄らいでいるように感じる。
圭都を大切にしているから薄らいでいると想いたいけれど。
結局甘えているだけなのかもしれない、と。
そんなことばかりが頭の中を回っていた。