だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「相手が傍にいる時には『いなくても大丈夫』って言える。でも本当にいなくなったら、『どうしてここにいてくれないんだ』と後悔ばかりするんだよ。矛盾ばっかり、恋愛なんて」
思わず口に出してしまった言葉を、森川はどう聞いただろう。
何かを想い出しているようで、森川が少し感傷的になっている気がした。
ただじっとコーヒーを啜っている横顔を伺った。
傍にいるときは『いなくても大丈夫』と言える。
その大切さが当たり前な故に。
けれど、本当にいなくなってしまった時。
『いなくても大丈夫』なんて、誰が言えるだろう。
埋められない寂しさを抱えて『どうして今、ここにいてくれないのか』と想うばかり。
傍にいてくれた当たり前が、どれだけ大切だったのか。
いつも気が付くのが少しだけ遅い。
「気付くといいね、松山。仕事が楽しいのは、誰かが支えてくれてるからなんだって」
何も言わない森川は静かに頷いた。
大きな身体が今は少し小さく見えた。
恋愛が生活の全てではないことくらい、私達にはわかっている。
むしろ、仕事をしている時に煩わしいことがないほうが効率もいいのかもしれない。
けれど、どこかで寄りかかる場所を探しているのも確かで。
自分の絶対の味方を探している。
かけがえのない、よりどころを。