だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
廊下からバタバタと走ってくる音がする。
自己主張の強いヒールの音。
それを追いかけるように革靴の音が聴こえる。
どちらも聞きなれた、私の知っている音だった。
間違いなくこの部屋に近付いてくるのがわかって、私はとっさに机の陰にしゃがみ込んだ。
無駄なこととはわかっていても、窓の下の壁に座り込んでしまえば隠れることは出来るから。
何とかやり過ごせればそれでよかった。
今、杉本さんの目の前で何かを言える気がしない。
何を言っても言い訳で、何を言っても彼女の耳に届かない気がしていた。
弁解も出来ない。
自信もない。
そんな私が、どうして圭都の彼女なのだと胸を張れるだろう。
ただ好きでいてくれる圭都の気持ちを、踏みにじっているだけのような気がして苦しくなるばかりだった。
圭都を好きな気持ちに変わりはない。
今だって大切に想っている。
それを、どうやって伝えたらいいのか。
今の私にはわからなかった。
整理できない自分の気持ちを誰かにわかってもらうことは、到底無理なことだと知っていた。
乱暴に空いた部屋の扉の音を、じっと座り込んだまま聞いていた。
動かない足音に、緊張ばかりが増した。