蜜ショコラ
「すごい!圭吾くんピアノ弾けるんだ」
「……」
扉が開いたことにさえ、気が付かなかったことも不覚だったけど
弾いてるところを、人に見られるなんて。
いや、しかもよりによって……
「え、やめちゃうの?もっと聞きたかったのに」
すかさず弾くことをやめて、オレはピアノを閉じたけど
あいつは好奇心旺盛に、さらにオレの隣へと近づいてきた。
肩にかかる髪が、かすかに揺れて。
純粋な瞳が、
オレの胸の奥をかき乱す。
同じクラスの野崎陽奈。
本当は、クラスが違ってた一年の頃から、密かに惹かれてた相手だけど。
想いを伝えることは、できない関係。
言葉を交わすことさえ、許されないと思ってた、兄貴の彼女だ。