【完結】ラブレター
1-2
俊は気配を感じて目を覚ました。起き上がると、洋一が戻って来ていた。後ろに女の子を連れている。長いストレートヘアーをお下げにした女の子。大きなトンボ眼鏡、横縞の赤のTシャツ、ブルージーンズの短パン。ほっそりした娘で、関取には程遠かった。ただ、胸だけは、横綱の娘だと主張していた。
「俊、紹介するよ、相沢京子さん。海の家の娘さん」
「こんにちは。相沢京子です。私、経済学部の二年なんです」
容姿に似合わない綺麗な声だ。
「おれ達の後輩だってさ」
「高杉です。宜しく」
「俊、悪いな、俺、ちょっと手伝ってくる。これ、差し入れ」
洋一はプラスチックの皿に入った焼きそばとラムネを出した。
「洋一、おまえは?」
「俺、京子ちゃんと一緒に食べたから。おまえ、よく寝てたからさ。じゃあな、また、後でな」
洋一と京子は店に戻っていった。俊は仕方なく一人で焼きそばを食べた。
(くそー、せっかく遊びに来たのに)
俊は焼きそばを食べ終ると、煙草を取り出して一服した。ぼんやりと浜を見る。青い空。真夏の太陽がちりちりと照りつけている。砂が太陽の熱と光を反射して痛いくらいだ。海は濃く青く波頭の白さが眩しい。潮の香り。砕ける波の音、風の音。人々の笑い声。
俊は一人で泳ぐ事にした。シュノーケルのセットを身につけ海に入る。俊は長い手足を思う存分動かして浜から沖に向って泳いだ。海中を覗くと小魚が泳いでいるのが見えた。体の横に赤い斑点のある魚がいる。俊はその魚を追いかけて泳いだ。
(ゲームだ。どこまでついていけるか)
そんな事を思いながら泳いでいると人とぶつかった。あわてて、立ち泳ぎに切り替え、ゴーグルをはずして謝る。
「すいません。気がつかなくて」
「あら、こちらこそ」
褐色の肌をしたエキゾチックな女だった。柔らかくウェーブした髪を肩あたりでカットしている。波の下にオレンジ色のビキニが見えた。俊は思わず目をそらした。ひもがほどけている。
「えーっと、その……、水着が」
「あら、ごめんなさい。」
女は波の下の胸を抑えた。俊に背を向けると急いでビキニの前のひもを結んだ。それから、もう大丈夫よと俊に声をかけて泳いでいった。俊が振り返ると、女は連れの男達の方に泳いで行く途中だった。俊は、大きく息を吸うと浜辺に向かって泳いだ。パラソルの下に戻り、ぼーっと浜辺を眺める。先ほどのオレンジ色のビキニを着た女が、連れの男達とビーチボールで遊んでいるのが見えた。
女がボールを受け止める度に、ビキニのひもがほどけるんじゃないかと見ている俊の方が心配になった。だが、女は全く気にしていない風で、無邪気に遊んでいる。見るともなしに見ていたが、気がつくと、浜辺にいる男達の大半が彼女を見ているのがわかった。やがて、女は疲れたのだろう、自分達のパラソルの下のビーチチェアに座った。男達の一人が、早速、飲み物を届けている。よく見ると、女の横にもう一人、別の女がいる。ビキニの女の連れらしい。こちらは黒のワンピース水着、黒のサングラス、腰にはやはり黒のパラオを巻き付け、麦わら帽子を被っている。長くまっすぐな黒髪が帽子の下に見えた。女はパラソルの下、ビーチチェアに座り雑誌を眺めている。二人の女の周りには四人ほどの男達が侍っていた。女の機嫌をとろうとしているのがみえみえだ。
俊が女達の様子を面白そうに眺めていると、昼の書き入れ時が過ぎたのだろう、洋一が戻ってきた。洋一は、俊の視線を追って、二人の女を見やった。
「俊、あの女達……なんだかえらく目立つな」
「ああ……」俊は上の空で相づちを打った。
俊と洋一が見ていると、男の一人が黒の水着を着た女に話しかけた。と、その女はどこかおどおどとした様子で軽く頭を下げて、立ち上がった。俊は女の立ち姿を見て、スタイルの良さに目を見張った。オレンジの水着を着た女が彼女に話しかけたが、黒の水着を着た女は軽く手を振ると歩き去った。洋一が言った。
「どうした? 気になるのか? あの美人、ナンパするつもりか?」
「え! 違う、違う。面白いなと思ってさ。あのオレンジ色の水着を着た女より、黒の水着を着た女の方が美人だ。だが、まわりの男達は、オレンジの水着を着た女の方に夢中だ」
「そりゃあ、そうだろ。オレンジの女の方がセクシーだし」
「ああ、確かに、黒の水着を着た女よりセクシーだ。だが、もの凄い美人じゃない。顔は十人並みだ。ボディも普通より太めかな。十人並みの女が男を夢中にさせている。それも四人だ。何故だと思う?」
相変わらず理屈っぽい奴だなと洋一は心の中で思った。
「さあな、俺にはわからん」
「やれるかもしれないって期待さ」
「おい、それは言い過ぎじゃないか、何故そう思う」
「さっき、誘われた。泳いでいる時にぶつかったんだ。その時ビキニのひもがほどけていた。波の下に胸が見えそうだった……。本当にいるんだな。ああいう、無意識に男を誘う女」
洋一が色めき立った。
「で、おまえ、お誘いを受けるのか? 俺に遠慮しなくていいぞ」
「何を言ってる。あんな女に引っ掛かってみろ。人生台無しにされるぞ」
「余裕だな、俺なら受けるぞ」
「余裕? じゃなくて選んでるだけさ」
「そうだろうよ、よりどりみどりだからな、おまえは。さ、もう一泳ぎしようぜ!」
「何をいまさら! 女の子をナンパしてたくせに!」
「俺はおまえみたいにもてないからな、声をかけまくるのさ」
軽口をいう洋一の後を追って俊も海に飛び込んだ。
その日、二人は相沢京子から花火が上がると聞いて、京子の家が営む釣り宿に一泊する事にした。
「俊、紹介するよ、相沢京子さん。海の家の娘さん」
「こんにちは。相沢京子です。私、経済学部の二年なんです」
容姿に似合わない綺麗な声だ。
「おれ達の後輩だってさ」
「高杉です。宜しく」
「俊、悪いな、俺、ちょっと手伝ってくる。これ、差し入れ」
洋一はプラスチックの皿に入った焼きそばとラムネを出した。
「洋一、おまえは?」
「俺、京子ちゃんと一緒に食べたから。おまえ、よく寝てたからさ。じゃあな、また、後でな」
洋一と京子は店に戻っていった。俊は仕方なく一人で焼きそばを食べた。
(くそー、せっかく遊びに来たのに)
俊は焼きそばを食べ終ると、煙草を取り出して一服した。ぼんやりと浜を見る。青い空。真夏の太陽がちりちりと照りつけている。砂が太陽の熱と光を反射して痛いくらいだ。海は濃く青く波頭の白さが眩しい。潮の香り。砕ける波の音、風の音。人々の笑い声。
俊は一人で泳ぐ事にした。シュノーケルのセットを身につけ海に入る。俊は長い手足を思う存分動かして浜から沖に向って泳いだ。海中を覗くと小魚が泳いでいるのが見えた。体の横に赤い斑点のある魚がいる。俊はその魚を追いかけて泳いだ。
(ゲームだ。どこまでついていけるか)
そんな事を思いながら泳いでいると人とぶつかった。あわてて、立ち泳ぎに切り替え、ゴーグルをはずして謝る。
「すいません。気がつかなくて」
「あら、こちらこそ」
褐色の肌をしたエキゾチックな女だった。柔らかくウェーブした髪を肩あたりでカットしている。波の下にオレンジ色のビキニが見えた。俊は思わず目をそらした。ひもがほどけている。
「えーっと、その……、水着が」
「あら、ごめんなさい。」
女は波の下の胸を抑えた。俊に背を向けると急いでビキニの前のひもを結んだ。それから、もう大丈夫よと俊に声をかけて泳いでいった。俊が振り返ると、女は連れの男達の方に泳いで行く途中だった。俊は、大きく息を吸うと浜辺に向かって泳いだ。パラソルの下に戻り、ぼーっと浜辺を眺める。先ほどのオレンジ色のビキニを着た女が、連れの男達とビーチボールで遊んでいるのが見えた。
女がボールを受け止める度に、ビキニのひもがほどけるんじゃないかと見ている俊の方が心配になった。だが、女は全く気にしていない風で、無邪気に遊んでいる。見るともなしに見ていたが、気がつくと、浜辺にいる男達の大半が彼女を見ているのがわかった。やがて、女は疲れたのだろう、自分達のパラソルの下のビーチチェアに座った。男達の一人が、早速、飲み物を届けている。よく見ると、女の横にもう一人、別の女がいる。ビキニの女の連れらしい。こちらは黒のワンピース水着、黒のサングラス、腰にはやはり黒のパラオを巻き付け、麦わら帽子を被っている。長くまっすぐな黒髪が帽子の下に見えた。女はパラソルの下、ビーチチェアに座り雑誌を眺めている。二人の女の周りには四人ほどの男達が侍っていた。女の機嫌をとろうとしているのがみえみえだ。
俊が女達の様子を面白そうに眺めていると、昼の書き入れ時が過ぎたのだろう、洋一が戻ってきた。洋一は、俊の視線を追って、二人の女を見やった。
「俊、あの女達……なんだかえらく目立つな」
「ああ……」俊は上の空で相づちを打った。
俊と洋一が見ていると、男の一人が黒の水着を着た女に話しかけた。と、その女はどこかおどおどとした様子で軽く頭を下げて、立ち上がった。俊は女の立ち姿を見て、スタイルの良さに目を見張った。オレンジの水着を着た女が彼女に話しかけたが、黒の水着を着た女は軽く手を振ると歩き去った。洋一が言った。
「どうした? 気になるのか? あの美人、ナンパするつもりか?」
「え! 違う、違う。面白いなと思ってさ。あのオレンジ色の水着を着た女より、黒の水着を着た女の方が美人だ。だが、まわりの男達は、オレンジの水着を着た女の方に夢中だ」
「そりゃあ、そうだろ。オレンジの女の方がセクシーだし」
「ああ、確かに、黒の水着を着た女よりセクシーだ。だが、もの凄い美人じゃない。顔は十人並みだ。ボディも普通より太めかな。十人並みの女が男を夢中にさせている。それも四人だ。何故だと思う?」
相変わらず理屈っぽい奴だなと洋一は心の中で思った。
「さあな、俺にはわからん」
「やれるかもしれないって期待さ」
「おい、それは言い過ぎじゃないか、何故そう思う」
「さっき、誘われた。泳いでいる時にぶつかったんだ。その時ビキニのひもがほどけていた。波の下に胸が見えそうだった……。本当にいるんだな。ああいう、無意識に男を誘う女」
洋一が色めき立った。
「で、おまえ、お誘いを受けるのか? 俺に遠慮しなくていいぞ」
「何を言ってる。あんな女に引っ掛かってみろ。人生台無しにされるぞ」
「余裕だな、俺なら受けるぞ」
「余裕? じゃなくて選んでるだけさ」
「そうだろうよ、よりどりみどりだからな、おまえは。さ、もう一泳ぎしようぜ!」
「何をいまさら! 女の子をナンパしてたくせに!」
「俺はおまえみたいにもてないからな、声をかけまくるのさ」
軽口をいう洋一の後を追って俊も海に飛び込んだ。
その日、二人は相沢京子から花火が上がると聞いて、京子の家が営む釣り宿に一泊する事にした。