【完結】ラブレター

3-2

 ミスコンまで二週間を切った或る日、俊と洋一、京子は、ミスコンの課題、特技の練習をしていた。俊と洋一はラジカセで音楽を流しながら、京子と一緒にチアガールの振りを考えていた。そこに数人の男子学生がやって来た。一回生らしい。その中の一人が、裏返った声で京子に話しかけてきた。洋一が音楽を停める。

「あ、相沢、京子さん、僕ら、写真を見てあなたのファンになりました。僕たち、あなたより年下だけど親衛隊になりたいんです。宜しくお願いします」

 洋一が、慌てた。

「京子ちゃん!」

「あ、あの私どうしていいか……」

 俊が仕切った。

「俺は高杉俊、こっちは小松洋一、相沢京子さんをミスキャンパスにする為に協力している。君たちが協力してくれるなら、ぜひ、親衛隊をやってくれたまえ!」

「もちろん、協力します。何からやればいいでしょうか?」

「よし、まず、親衛隊になる為の心得を言っておく。……まず、相沢京子さんの日常生活を乱さない。ファン活動より学業を優先する。相沢京子さんの親衛隊隊員として恥ずかしくない学生生活を送る。この三つだ。相沢さんをミスキャンパスにするのが目的の親衛隊なら活動して貰って構わない。ミスコンが終わったら、相沢さんは普通の学生生活を送る。つまり二週間限りで必ず解散する事、これが条件だ」

 男子学生達は、しばらくお互いに顔を見合わせていたが、代表者が返事をした。

「わかりました。親衛隊は2週間で解散します。ミスコンまで協力させてください」

「では、君たちに頼みたい事がある。経済学部にミスコンのティアラを持ち帰ろうという運動に賛同してくれる人を集めてほしい。彼女が個人的な売名行為ではなく経済学部のみんなの為にやっていると印象づけてほしい。ただし、過激な勧誘はしないように。過激な勧誘はかえって反感を買う。さらっと勧めてけっしてしつこくしない。次に、ミスコン当日は京子さんを支持する人をたくさん集めてくれ。審査員はくじで決まる。出来るだけ審査員になってほしい。以上だ。何か質問は?」

「あの、あの、僕ら相沢京子さんを囲んで一席設けたいんですが……」

「君たちは、二十歳になってないんじゃないか。絶対に酒はだめだ。相沢さんが失格になってもいいのか?」

「いえ、酒の席ではありません。サ店で一緒にお茶したいんです。僕らの事、知ってほしいんです! 名前と顔を覚えてほしいんです! お願いします」

「では、今から自己紹介をしろ。君たちの身元を確認させて貰う。その上で君たちとつきあうか決める事にする」

「わかりました、では、僕から。親衛隊の代表の田中浩一です」

 六人ほどいた若者が次々と名乗った。俊は代表の田中に名簿を作らせた。名簿を俊に渡すと、親衛隊は帰っていった。

「俊、あんまりだ。親衛隊なんて作ってほしくないよぉ」

 洋一が泣き言を言った。

「組織票があれば心強いんだ。あきらめろ」

「洋一さん、あの、私……、年下には興味ないから……」

 京子は俯いて恥ずかしそうに言った。

「ほんと? ほんとに! 京子ちゃん、俺って幸せ!」

 京子の一言に舞い上がる洋一だった。


 一方、女子学生達の反応は違った方向に向かった。今まで、群衆に埋もれていた京子がいきなり輝きだしたのだ。女子学生達は、こぞって京子の真似をした。京子が利用した美容院に行く者、ブティックを利用する者、それぞれだったが、それだけではきれいになれないとわかった女子学生達は、相沢京子を美人にした俊に興味が向った。今までも俊はその美しい容姿で女子学生の憧れの的だったが、女子学生達は俊を違った目で見るようになった。
 俊が講義に出ていると、今までは顔見知りであっても普通に話す事のなかった女子学生が俊に気軽に話しかけて来るようになった。挙げ句は、デートに着ていく洋服の相談から髪型の意見まで聞かれるようになった。俊はくすぐったかった。容姿ではなく、相沢京子を変身させた能力で女子学生に注目されたのが、俊は面映くもあり嬉しくもあった。
 日頃からラブレターを貰っていた俊だったが、今回の件でラブレターの内容が変わった。俊を理想の人として夢を書いてくるのではなく、もっと地についた現実的な相手として書かれたラブレターが増えたのだ。俊は貰ったラブレターには必ず目を通している。俊だって男だ。折あらば女達との恋愛ゲームは楽しみたかった。だが、よく有るストーリーは読みたくなかった。そんな物は読み尽くしている。次にどんな手を打ってくるかわからない相手、そんな相手とゲームをして見たかった。夏の日のオレンジの水着を着た女。あの女となら面白いゲームが出来ただろう。のめり込んだら危険そうな相手だが、適度に冷めた気持ちで遊ぶには面白そうな女だった。見え見えの誘いの手口に却って興ざめしてしまい誘いに乗らなかった俊だが、一晩くらい遊んでもよかったかなと思った。

 俊の父親の啓介は、学園祭が近づいたある日、居間のガラステーブルの上に散らばっている相沢京子の写真やミスコンの資料を眺めた。

「俊、この写真はおまえが取ったのか」

「うん、なかなかだろ。……この子は相沢京子さん。洋一の彼女なんだ」

 俊は啓介に学園祭のミスコンの話をした。

「……、おまえにしちゃあ、珍しく熱心なんだな」

「父さんの所でファッションショーのバイトをやっただろ。自分でもプロモーションしてみたくてさ。夏に海の家で相沢さんに会った時、ピンと来たんだよね。この子なら美人に変身させられるって! ほら、こっち。これが髪を切る前の相沢さん。俺が変身させたんだ」

 父親はほうっという顔をした。

「……まあ、何事も経験だ。がんばってみるんだな」


 十一月に入り、学園祭が始まった。
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