【完】時を超えて、君に会いに行く。
「へぇ。変わった小説家さんだな」
おかしそうに、彼方は笑って言う。
確かに。と思い、ちょっとだけ恥ずかしい気持ちになった。
だって彼方の言うとおり、最後に登場人物の名前をつける小説家なんて、きっとそうそういないと思う。
だけどこれは、この物語は、私が初めて書いた物語だから本気で仕上げたいと思ってる。
「物語ってね。その人の人生を表してるって思うの」
「え?」
「本を読んでると、その文章にすごく惹きつけられることってない?」
「まぁ……たまにあるかな。好きな作家だと特に」
そう言って、彼方は意味深な目線でその瞳に私を映す。
「?」
「いや、なんでもないよ。続けて」
続きを促され、私は小説について語る。
「なんていうか、文章が生きてるんだよね。たくさんの想いが込められて作られた作品なんだなぁって。そして読み終わったあとに気づくの。
きっとこれを書いた人は、この物語みたいに生きた人なんだろうなって……」
私の言葉に、彼方は不思議そうに、でも興味深そうに、耳を傾けていた。
「たとえば悲しい物語だったら、この人はどこかで悲しい経験をして、それを自分の物語で伝えたかったんじゃないかな、とか……。
丁寧に描かれる文章だったら、その人はきっと繊細な人で、穏やかな人生を送ってるんじゃないかなぁって」
これはあたしの勝手な憶測だけど、彼方はなにも言わず静かに聞いてくれていた。