【完】時を超えて、君に会いに行く。
「君の見ている風景」
唐突に、沙奈が微笑んでそう言った。
物語にトリップしていた私は我に返り、その言葉の意味がわからなくて首を傾げる。
「この絵の題名だよ」
「……え? それって人物の絵だよね?風景じゃないよね?」
「風景だよ」
「えぇ?」
どこが風景なんだろう?
絵のなかみは、私が小説を書いてる姿が描かれているだけだ。
やっぱりワケがわからず、私は首を傾げてしまう。
風景として見る価値もない。それならきっと、夕焼けとか、山とか、まだそんな風景を見てる方がいい気がする。
「いいの、これで」
けれど沙奈は、瞼を閉じて満足そうな笑みを浮かべる。
「……彼方が見てるのは、夢を追う未歩の姿なんだから」
とても、とても聞き取れない小さな声でつぶやいたその声は、
――パタン。
スケッチブックを閉じる音と同時に空気の中にかき消されて、私の耳に届くことはなかった。