【完】時を超えて、君に会いに行く。



身寄りのない俺は、研究者が見つけ、拾ってくれた。



いや、実験台として利用するのにちょうどよかっただけだろう。



辛い……?苦しい……?



別になんとも思わない。利用されて、実験が失敗して死んでもいいし、この体が必要だっていうのなら、俺の命じゃないし、他人に差し出していいとさえ思っていた。



荒んだ世界で俺は、心まで失いかけていたんだ。



だけどひとつだけ。


そんな過酷な人生の中でも、たったひとつだけ……好きなことがあった。



それは、本を読むこと。


唯一、この大嫌いな世界から別世界に行ける手段として、本を手に取る瞬間が好きだった。


作品に夢中になればなるほど、この世界のことを忘れることができる。


幾度となく本を読んだそうだ。今世のことも、後世からずっと渡ってきた歴史書も、物語も、どんなことも全て……。



小さい頃、母親と父親がいないときも、ひとり寂しさを紛らわすためにたくさんの本と出会っていた。


物語も、いろいろな言語も、あらゆる時代の歴史も知識として心得た。


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