【完】時を超えて、君に会いに行く。
「本来なら、俺は未歩の物語の完結を見届けたら、この世界で関わった全ての人の記憶から俺に関する記憶を消して、時間を戻さなければいけなかった」
……航が事故に遭って、未歩が小説を書かなくなる本当の時間に……。
「タイムパラドックスが起きてしまうんだよ」
「……タイム、パラドックス……?」
初めて耳にした言葉だったのだろう。未歩は不思議そうに首を傾げた。
「そう、タイムパラドックス。つまり、時間の逆説のこと。
簡単に言うと、時間を遡って過去を改変することで、既に確定している未来の事象と矛盾をきたすことだよ」
「……それって……」
「本当は起こってはいけないことなんだ。歴史を変えるということは、未来の時間に大きくひずみを与えてしまうから」
「じゃあ……」
未歩の瞳が、恐怖と不安が入り混じり、悲しげに揺れる。
「私はまた、あの過去に戻されるの?
航を亡くしてしまう、あの日に……」
震える未歩の声が、弱々しくて。
震える未歩の手が、冷たくて。
俺はこの小さな体を、守りたいと思った。
君の輝く未来と共に……。