【完】時を超えて、君に会いに行く。



「……そろそろ、時間だ」



傾く夕日に照らされる原稿用紙に焦点を当て、彼方はかすかに微笑んだ。



タイムリミットが、きたようだ。


時が止まった。


夕暮れ。

美術室。

窓から吹く風が、少し冷たい。


彼方はゆっくりと私から離れると、机の上にある色褪せた原稿用紙を手に取った。


視界に映る後ろ姿が遠い。さっきまでの彼方の温もりを、もう私は求めている。



行かないで。


離れないで。


お願い。待って。


まだ、私言ってない。



彼方に言ってない、想いがある。



「彼方……っ」


「未歩、好きだよ」



……え?


後ろ姿だった彼方がこちらに振り返り、夕日を背後にたずさえながら、



「……好きだよ」



優しい声でそう言った。



この部屋の空気のすべてに浸透していくように……澄み切った声で。


私は何も言えず、立ち尽くした。


……わざとだ。


彼方は私の言葉を遮って、私の想いは聞かないで行こうとしている。



だって、わかる。



彼方の顔が、〝言わないで〟って、言ってる。

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