【完】時を超えて、君に会いに行く。
私の瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちる。
すると彼方は私を抱きしめる腕を緩め、私の顔を覗き込むように見つめた。
「未歩、最後の俺のワガママ。笑って」
彼方がそう言って、笑う。
「最後に覚えてる未歩の顔が、泣き顔なんて俺はいやだ」
……確かに。
最後に覚えていてくれる私の顔が、泣き顔なんて……そんなの、私達らしくないよね。
私はポロポロと溢れる涙を何度も拭いながら、彼方に向かって、笑った。
とっておきの、最高の笑顔で。
「……こうでいい?」
確かめるようにそう聞けば、彼方の唇がかすかに、ゆっくりと、時を刻むように動いた。
あ り が と う
そのまま彼方の手が私の頬に伸びてきたから、思わずギュッと目をつむった。
そして……私の瞼に、温度も感触もない何かが当たる。
時間をかけるように目を開ければ、至近距離に彼方の顔があって視線が絡む。
――『時を超えて、君に会いに行く』
私の瞼を親指で拭って、腕を下ろす。
そのときの彼方の不器用な笑顔が、私の心の奥深くに焼きつく。
けれど、たった今私を抱きしめていたその体は、ひときわまばゆい光を弾かせて、無数の光の粒となって、一瞬にして消えた。
目の前に彼方は、もういない。
「…………っ」
だんだんと私の意識は遠のいていく。
ああ、イヤだな。
次に目が覚めたとき、この世界に君がいないなんて。
次に目が覚めたとき、私が君を覚えていないなんて。
声にならない嗚咽をもらしながら、そっと唇を噛み締めた。
頬には一筋の涙が伝う。
風が吹きぬける。
金色の輝きはキラキラと舞い上がり、拡散し、蒸発するかのように、消えていく。
消える。消えてしまう。
彼方との思い出が、全部。
……でも。
私たちの絆は消えない。
そうだよね……?彼方……。
意識がなくなり、崩れるように倒れそうになる私の右手に、最後の光がかすかに触れる。
……優しくて温かい、遥か彼方の光。
触れればチクンと胸が痛んで、じんわりと温かい気持ちになった。
――ありがとう。
そんな言葉を口にして、私はそっと、目を閉じた。