first Valentine
「……この国は美しいな」

和夫がボソリと呟く。

荒れた土地に焼けただれた瓦礫が積み上がる光景は珍しくもないこの国で。

それでも和夫は「美しい」と口にした。

「そうですね」

フミも静かに相槌を打つ。

愛しい人を育んできた国が、愛しい人が守ろうとしている国が、美しくないわけがないのだ。



それが二人きりで話す最後の会話となった。


5日後。
和夫は同じく召集を受けた男たちと共に戦地へと旅立った。



そして、彼は二度とフミのもとには帰らなかった。
 
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