不器用恋愛
蒼が長い指先で何本目かの煙草に火をつけた時に、鼻につく甘い香りが傍に立った。
「隣、構わない?」
俺の意見など聞かず当たり前のように腰を下ろす。
「みんなで噂してるの。素敵な人だって。すごく目立ってて、わぁ!指も長くて綺麗」
歯の浮くセリフを言ってのける甘ったるい声。指を掴むその手。
蒼の存在などまるで気にしないこの女は俺を苛立たせるだけ。
蒼が煙草を消す気配。
こいつの行動が手に取る様に分かる。
『じゃ、あたし行くわ』
そう言って邪魔にならないように席を立つ。いつもの事とばかりに。
その何も気にしない態度が俺を感情的にさせる事をこいつは全く気付いてない。
「帰れば?」
だから、こいつが勝手に席を立つ前に言う。その瞬間の、眉間に皺が寄る顔が好きだなんて言ったら怒るだろうな。
「はいはい。じゃあね」
蒼はヒラヒラと手を振って席を立つ。
俺はスラリとしたモデル体型の蒼の後ろ姿を眺めるだけ。
後悔は、いつもすぐに押し寄せる。