不器用恋愛

しなだれかかる様に女が俺の肩に手をかける。煩わしい。触るな。


「ねぇ、場所変えない?」


雌の匂い。蒼が出て行ってから一言も発さない俺のあからさまに不機嫌な態度など気に留めない図々しさはむしろ尊敬する。


「勘違いさせたら、すまないが」


俺は煙草の火を消す。


「俺はおまえなんか全く興味ないから」


ニコリと笑う爽やかな笑顔に反した毒々しい言葉。


多分、女は先に俺の表情を見て言葉の意味を理解出来ずにいる。



「俺が欲しいのは、今出て行った女だけだよ」



俺も席を立つ。



今日は気分が悪い。



初めて、あいつと恋愛めいた会話をしたのに、邪魔されるし、俺の行動はガキみたいだし。やってられるか。



静かな店内にえらく注目される視線など気にせず、俺はマスターに金を払って、そのままドアを開けた。

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