冬空どろっぷす
序章
ちくちくと、針で刺されているようだ。
胸の奥の、一番暖かくて柔らかいところが、熱を帯びたみたいで。
火傷をしたかのように、疼くのだ。
―ばれませんように。
嗚呼、神様。
どうか、どうか、彼に気づかれませんように。
貴方と話をするたびに、私の頬が熱を持つこと。
声が、震えそうになってしまうこと。
未だに彼を、好きでいてしまうこと。
彼にだけは、ばれませんように。
伝わりませんように。
この想いが、願わくば神様、貴方へ通じますように。
いいえ、大丈夫。
私が彼に恋をしてはいけないと、分かっています。
だけど、でも。
今だけは、少しだけ。
彼との思い出を忘れるために、彼を想うことを、許してください。
そうすれば、きっと。
この胸の、刺すような痛みも。
息が出来なくなるほどの苦しさも。
涙が零れ落ちてしまう悲しさも。
全て笑って、耐えて見せるから。
―October.11 Mio Kusunoki