冬空どろっぷす

その言葉に、思わず口を開けた。
呆然と、あんぐりと。

「…は?」

「ええやん、ほら!」

すっと、また手を差し出される。
けど、やはり―…

「私、は…」

握ることが、出来ない。

「…美桜?」

ふ、ふっと少し荒い息。
校門から聞こえた声は、”いつも”より少し、弱弱しい。

「日向…」

走ってきたのだろう日向は、リュックの肩紐はまた半分ずり落ち、靴はつっかけたまま。
髪は風に煽られてぐしゃりとしていて、息が荒い。
困惑した表情で、こちらをうかがっている。

「…教室から、見えたから…一緒、帰ろう…」

息継ぎの合間にそう言われ、ホッと息を吐く。
やはりまた、緊張していた。

―なぜ、だろうか?

「…うん。でも、いいの…?」

らしくなく。
本当にらしくなく、そんなことを聞いてしまう。
いつもなら、勝手にすれば、くらい言ってしまうのに。
どうして今日は。
どうして彼がいると、弱弱しくなってしまうのだろう。

まるで、女の子みたいに。

「…俺が、そうしたい…から。」

日向の優しい言葉に、ふわりと笑顔がこぼれる。
横目で見えた彼が、驚いたように目を見開いたのが見えた。

「…ごめんなさい。日向と一緒に、帰るから…」

彼は、俺の方が先だったとは、言わなかった。
そうか、と呟くと背を向ける。

どうしてだろうか。

その背中を見ていると、ちくちくと胸が痛くなる。

「…美桜、誰…?」

心配そうな日向の声に、彼の背に釘づけになった視線をそらすことが出来ずに、答える。

「隣の学校の、遼、って人…」

そう、と、日向は呟いたようだった。

「…変な人……」

そんな言葉が出てきたのは、何故だろうか。


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