冬空どろっぷす
「…美桜……」
困惑した、戸惑いがあふれる声が。
聞き覚えがあるのに、いつもよりどこか小さい、声が。
ぱっと振り返ると、やはりそこには、待ち合わせの約束をしていた日向が居た。
「日向!」
日向が来たことに”ほっと安心”して、思わず笑顔になる。
そうしてまた、自分が無意識に肩に力を入れていたと気付く。
私があまり見せないような顔をしていたからだろうか。
日向は驚いたように少しだけ目を見開いて、視線を斜め横にずらす。
―あぁ。
つぎはぎがぼろぼろになって。
ほころびて。
本当の私が、出てきてしまう。
「…待ち合わせ…て、そいつ、なんか。」
遼の呟きが、小さく聞こえた。
びくっと、反応しかけてしまう。
そうして、少しだけ分かったことがあった。
私は。
私は、彼が。
「怖い」んだ、と。
どうしてかまではまだわからないけれど、彼が「怖い」。
「美桜、行こ。」
照れくさそうながらにそう促され、こくりと頷く。
それから、ちょっとだけ、振り向いて。
「じゃあ、ばいばい」
何故そんな風に、彼に声をかけたのか。
気まぐれだったのか、なんなのか。
今更、分からないけれど。
「おう!またな!」
と、私の背に向って叫んだ、彼のことも。
まだよく、分かっていない。