冬空どろっぷす
「美桜…大、丈夫…?」
おそるおそる、といった体で日向が声をかけてくる。
そんなに顔が引きつっているだろうか。
「…っ、遅い!」
ぽふん、と大した勢いもつかない平手が、日向の腕を叩く。
ずるりと落ちる手で、そのまま袖の裾を掴む。
「あの人、苦手だ…」
小さな呟きは、日向に届いてしまっただろうか。
「美桜、また、手。」
「…へ?手?」
日向は袖を掴んだ私の手を見下ろしている。
眉を下げ、心配そうに。
釣られて自分の手を見下ろしてみる。
少しの間、外で待っていたからだろうか。
冷たい携帯を弄っていたせいだろうか。
元々冷え性だったからか。
指先が真っ赤になり、手のひらと手の甲は青白く染まっていた。
「…手が、どうしたの?こんなの、いつも」
言葉の途中で、日向の腕が離れる。
するりと手が離れ、そうして気づく。
―らしくない、と。
「ご、ごめん…!」
ぱっと手を後ろに回し、斜め下を向く。
「そ、袖掴んだりしてごめん…けど、日向時間になっても来ないし心配で…っていうか!どうしてちゃんと待ち合わせ時間に来ないの!もう五分くらい過ぎて…」
こうしてまくし立てて、恥ずかしさと、申し訳なさと、怒りをごちゃまぜにして。
さも、”全てが怒りであるように”しゃべり続ける。
そうすれば、この一瞬の弱さは、何も…
「美桜。手。」
日向は、何も聞いていないというように。
すっと、私の目の前に手を差し出した。