冬空どろっぷす
がたごとと揺れる電車に揺さぶられながら、日向と一緒に学校を目指す。
満員というほどではないにしても、そこそこに混んでいる電車内。
サラリーマンやOL、大学生よりも高校生が目立つ車内には、それこそ溢れるほどにカップルばかりが乗っている。
只でさえ満員電車の名残で蒸し暑い車内が、暑苦しい。
「あれぇ、美桜ちゃん!」
耳に心地よい、鈴のような声。
「理紗!」
中条理紗(なかじょう りさ)。
小学生のころからの、大切な友人だ。
とても頭が冴える子で、私と似た性格をしている。
この子も、腹黒いのだ。
だからこそ、ここまで仲良くできているのだけど。
「おはよ!」
「おはよぉ、美桜ちゃん!」
仲良く挨拶をしているところで、理紗の背後に人影があることに気づく。
「今日は早くねぇのな、楠木。」
そこに居たのは、幼馴染の三神空(みかみ そら)。
幼馴染といえど、彼とはなんにもない。
面白いくらいに、何もない。
「黙れチビが。私は理紗とお話してんだよお呼びじゃねぇよ。」
ぼそぼそ、っと聞こえるような小声で返事をする。
空はピクリと顔を引きつらせたが、仕方なさそうにため息をついて黙り込む。
「美桜ちゃん、今日は鳥居くんと一緒なんだねぇ。」
私の隣にいた日向に気づいたのだろう、理紗は日向に向かって手を振る。
日向も理紗に気づき、ぼんやりとながら手を振った。
「…なんで、日向と一緒なんだよ?」
不満そうな空に、何故か自慢げに日向は口角をあげる。
「駅で、会った。」
「…で?」
「一緒に、来た。」
言葉数の少ない日向は、必要事項しか話さない。
まぁ、実際にはそうなんだけれども。
「空には関係ないでしょうが。」
「…確かに。」
「ね、日向もそう思うよね。」
「仕方ないよねぇ空くんは。」
日向と私、いつの間にか会話に交じっていた理紗と共に、空を蔑むようにひそひそと話す。
空は怒りと恥ずかしさで顔を赤くし、肩を震わせた。
「う…うっせぇよ!!何だっていいだろ別に!!」
「あ、空くんが怒った!」
「五月蝿いなぁもう。」
「…迷惑だよ、空。」
何を言っても、勝てないということが分からないのだろうか。
―次はー…
学校の手前の駅に、到着するようだ。
出入り口付近にいた私は、座席の方に身を寄せる。
「じゃあまた学校でね、美桜ちゃん!」
「ん、また後でね!」
「ばいばい、理紗。」
その様子を見ていた理紗は、入り口から離れていく。
日向は一緒に行かないのか、私の隣に立ったままだ。
「ここ、混むよ?」
「…平気。」
ぼんやりとしたままの日向は、もぞとまた動く。
今日はやけに動くなぁと、少しだけ不思議に思った。