冬空どろっぷす
二章
最寄駅から学校に向かうまでの、短い通学路。
雪崩れるように駅から学生が出ていく中、私と日向も駅を出る。
―ぴ。
電子の定期を機械に通し、改札を抜ける。
―ぴぴぴぴぴぴぴ。
不意に鳴った、隣の機械を見る。
案の定、日向が改札を通ることが出来ていなかった。
「…あれ?」
きょとん、と首を傾げつつ、もう一度改札に電子定期をタッチする。
―ぴ。
「ちゃんと押さえないからだよ!」
珍しく日向が怒っていたのを見たからか、頼りになるんだなぁと認識を改めていたのだが。
それはちょっと間違っていたかもしれない。
日向と一緒に通学路を歩いていくと、前に見知った背中を見つける。
揺れるポニーテイルの少女と、背中を丸めた少年。
「…琴葉!忍君!」
駒沢琴葉(こまざわ ことは)と、大宮忍(おおみや しのぶ)。
明朗快活、スポーツ万能で姉御肌な琴葉と、メガネっこで女の子っぽい、草食系男子な忍君。
彼女たちは、俗にいう幼馴染だ。
だが、こちらは私や空のような、言葉だけのものではなく…
これぞ少女漫画!とでも言いたくなるべたべたな恋愛をしている幼馴染カップルだ。
思い返すだけで、あの時のひと騒動は…こう、胸にくるものがある。
自分のことではないというのに、だ。
「お、美桜!…と、鳥居か。お早う。」
「お、おはよう…」
「…おはよ。」
一通りの挨拶が済んだところで、琴葉はぐいぐいと日向を押しのけ、私の隣を陣取った。
そして耳に顔を寄せ、ひそひそと小声で話しかけてくる。
「…いつ、付き合いだしたんだ?」
その言葉を聞いて、一瞬考え、琴葉の方を真顔で見返す。
背後に漫画のような効果音を背負ってやろうか。
「…すまん。私が悪かった。」
「分かればいいよ。」
うむ、と頷くと琴葉は少し残念そうにそうか、と呟く。
「美桜と鳥居が付き合ってたなら…ダブルデートとやらが出来ると思ったんだが…」
「けふっ」
「…う?」
その独り言は、もう少し小さい声でもよかったのではなかろうか。
日向にも聞こえたらしく、くるりとこちらを振り返る。
「な、なんでもない。ちゃんと前向いて歩きなよ。」
「…う。」
この時ばかりは、日向がこんな性格でよかったと思わざるを得ない。
「そーゆーのがしたいなら、ほら…」
そういって、私は斜め前を指さした。