冬空どろっぷす

「あそこを、誘うとか。」

指さした先には、さっき電車で別れた空と理紗がいる。
付かず離れずな距離を保ったまま、ただ無言で歩いている二人。

「…あれはまだ、付き合ってないだろう。」

「もう秒読みでしょ、多分。」

かもしれんが…などとまたぶつぶつ言いながら、琴葉はその切れ長な目に憂いを滲ませる。
それに気づかない私じゃぁ、ない。

「…いいのか、美桜。」

「あれが、理紗の幸せなんだから。いいんだよ、これで。」

それに…と続きかけた言葉は、喉を震わせただけで。
実際に、言葉になることはない。

それに。
アイツは、私を何とも思っていないのだから。

琴葉だけは、知っていた。
私が、過去に、空を好きだったことを。
同じような環境だったせいか、琴葉にだけは、気づかれてしまった。

けれど、それはもう、過去なのだ。

「いいんだよ。」

「…そう、か。」

琴葉は、困ったように微笑む。
彼女は優しい子だ。
きっと、私の気持ちに気づいていながら理紗を手伝ったことを、気にかけているのだろう。

「本当に、鳥居とは何もないのか?」

「…なんで日向?」

「最近よく、一緒に居るだろう。」

クラスの男子の間で噂になっていたぞ、と言われ、そうだろうかと最近の自分の行動を思い返してみる。

「あ、そうかもしんない。」

ほらな、というように首を傾げられ、こくりと頷いた。
思い返せば、理紗の恋路を応援しだすようになってから、日向と一緒に居ることが多くなった気がする。
必然の流れか、とも思うけれど。

私と理紗が一緒に居たように、空と日向も一緒に居たのだから。
余りが一緒に居るのも必然だろう。

皆で行ったお花見でも。
夏の花火大会の時も。
文化祭も。

理紗の願いを叶えるために、率先して日向を連れ出していたから。
そうして1年経って、私の気持ちにも少しは変化があった。
でも、だからといって、何も変わることはなかった。

「でもさ、ほら。ダブルデート的なことをすれば、もう…」

と、そこで言葉を区切る。
一瞬だけ、視線をそらす。

「…美桜?」

心配そうに琴葉に顔を覗き込まれ、視線を戻すことはせずに、笑う。

「…なんでもない。」

首を振って、俯いたまま歩き始めた。
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