足音

心臓の音が収まってくると、後ろをゆっくり確認した。

後を追われてはいないようだった。

もう帰ろう。

来た道を戻ろうとして気づいた。


ここは、どこだ?

ザッ。

そのとき、後ろから足音がした。
少し離れた場所からだが、確かに地面をこするような音だった。

ザッ、ザッ。足音は近づいてくる。

俺は後ろを振り向いたが、誰もいない。

ザッ、ザッ、ザッ。

一定の距離をもってついてくる足音。俺の顔は恐怖にゆがんだ。ほぼ反射てきに、再び自転車を漕ぐ足に力をいれ、逃げだした。

ザッ、ザッ、ザッ。

何も見えないのに何かがいる。自転車を漕いでいる間も一定の間隔でその音は聞こえ続ける。走っているとしたらなんて速度なのだろう。もはや俺はどこに向かっているのかもわからなかった。

明らかに追いつかれたら何かされる、そんな異形な雰囲気に飲み込まれそうだった。

俺は疲労を感じながら後ろを少し振り向いてみた。

(ど、どうしてだよ)

先ほどの女性が追いかけてきていた。少し遠いが、間違いなくそれだった。


口は裂けそうなほどの、改めてみると鬼のような形相の女。

しかし、俺は気づいた。

足音は更に前にある。

何も見えない場所からの足音は、やはり女とは別に存在していた。

恐怖対象には変わらないが、俺を追うものが二つに増えてしまった。

辺りは徐々に薄暗くなってきて、足音も段々大きくなり、泣き出したい気分だった。

やがて、俺の足は疲れ漕ぐ気力がなくなってきた。

バッ。

次の瞬間女は俺の少し前にいた。

もうダメか。

なんか、走馬灯とかなんもないんだな。ただ恐怖しかない。次の瞬間には死んでるかもしれない。
< 3 / 6 >

この作品をシェア

pagetop