足音
心臓の音が収まってくると、後ろをゆっくり確認した。
後を追われてはいないようだった。
もう帰ろう。
来た道を戻ろうとして気づいた。
ここは、どこだ?
ザッ。
そのとき、後ろから足音がした。
少し離れた場所からだが、確かに地面をこするような音だった。
ザッ、ザッ。足音は近づいてくる。
俺は後ろを振り向いたが、誰もいない。
ザッ、ザッ、ザッ。
一定の距離をもってついてくる足音。俺の顔は恐怖にゆがんだ。ほぼ反射てきに、再び自転車を漕ぐ足に力をいれ、逃げだした。
ザッ、ザッ、ザッ。
何も見えないのに何かがいる。自転車を漕いでいる間も一定の間隔でその音は聞こえ続ける。走っているとしたらなんて速度なのだろう。もはや俺はどこに向かっているのかもわからなかった。
明らかに追いつかれたら何かされる、そんな異形な雰囲気に飲み込まれそうだった。
俺は疲労を感じながら後ろを少し振り向いてみた。
(ど、どうしてだよ)
先ほどの女性が追いかけてきていた。少し遠いが、間違いなくそれだった。
口は裂けそうなほどの、改めてみると鬼のような形相の女。
しかし、俺は気づいた。
足音は更に前にある。
何も見えない場所からの足音は、やはり女とは別に存在していた。
恐怖対象には変わらないが、俺を追うものが二つに増えてしまった。
辺りは徐々に薄暗くなってきて、足音も段々大きくなり、泣き出したい気分だった。
やがて、俺の足は疲れ漕ぐ気力がなくなってきた。
バッ。
次の瞬間女は俺の少し前にいた。
もうダメか。
なんか、走馬灯とかなんもないんだな。ただ恐怖しかない。次の瞬間には死んでるかもしれない。